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(毎週更新)



(14) 8日ぶりのビール……


近世の城跡



○攻め攻め攻めのリクシャードライバー

 デリー駅舎を出ようとすると、客引きの声があちこちから聞こえてくる。
 2台のオートリクシャに分乗してボランティア団体オフィスのあるK5へ向かう。

 今回のドライバーはまことにアグレッシブに執拗に攻めに出るタイプで、クルマとクルマの間にぐいぐい入りこむ。信号待ちしているクルマの後ろに付くのではなく、少しの隙間に入りこもうとする。だから、3車線道路には5台の車が並ぶことになる。
 このドライバーは、走行中でも少しの隙間があれば割って入りこみ、猛スピードで隣の車両とぎりぎりのせめぎあいをし、自動車を挑発する。そのスリリングな瞬間を楽しんでいるふうなのだ。
 ああやばい、と後部座席で思わず脚を縮めることが5度くらいあっただろうか。せっかくカッチ湿地から生還したのだから、こんなところで死にたくはないものだ。


 猛スピードで街中を走る

 こちらが肝を冷やしているのを、運転手は長い睫に黒いぎょろりとした瞳の視線を流してきて私をちらりと見やり、にやっとする。客に恐怖感を与えて、その表情を楽しんでいるのだ。やれやれ。

 風が涼しい。夜明けとはいえ、デリーはジャナンよりはだいぶすごしやすい。事務所に戻り、トイレをすませ、シャワーを浴びる。列車の中のような気遣いがいらないので、インド式トイレであってもホームに戻ったような安心感が生まれる。

○路上モバイルカフェで

 鏡を見ると、瞼の余計な水分やらが後退し目が深くなり、伸ばしっぱなしの髭はずいぶん伸びてきた。髭も白が目立つ。手を頬に回して、髭の感触を確かめる。

 近くの路上でチャイを売る小店がある。オーダーを受けると、手際よく熱いチャイを作ってくれる。人々が立ち寄りチャイを飲んだり、世間話をしている。路上で移動可能な簡易オープンカフェといった趣き。
 私たちもチャイを飲む。うまい。くつろきのひとときだ。



 朝食はマドラスカフェで。チェンナイ(マドラス)に住むアルルラジお気に入りのお店のよう。味はこれまでのなかでは美味。



 昼食もマドラスカフェで。いつもはポロシャツにビジネス風のズボンのアルルラジ。今日はドレッシーな白のワイシャツを着ている。これからビジネスの世界に戻るのだろうか。よくひとを笑わせる陽気なインド人だった。その彼とはこれでお別れとなる。

 午後、ハウズカースの遺跡まで散策へ。
 近世初頭、日本でいえば室町期ごろの城郭跡らしい。日本の当時の城郭規模と近いが、レンガを積み上げて組まれている。
 どちらかといえば、西欧の城郭に近いようだ。




○ビールの店はあるのか

 今夜はSCIデリー支部のひとたちの会合がオフィスである。日本からの我々の歓迎会も兼ねるという。
 とにかくビールが呑みたい、デリーに戻ったら飲もうと決めていた局長と私は、ビールを買いに出る。たしかあったはずだと局長が記憶している場所を探す。
 もちろん基本的にはアルコールは販売されていない。たしかに街でアルコール中毒と思われる人は見ない。しかし、近年一部ではアルコールも売られているという。その店を探しに街に出る。

 店を探す局長の足はどんどん速くなる。どちらかといえば、もともとおっとりしたタイプだったはずの局長だが、ことビールとなると、意外や足が速い。どちらかといえば長くはない両足がどんどん前へ出る。進んでは引き返し、街中を探す。なかなか見つからない。

 大通りの繁華街でようやく店をみつけ、500ミリ缶を5本買う。しかし店は袋をくれない。ここで局長は店の脇にあった小さな段ボールを勝手に取り、そこに缶を入れる。ビールについては、たいへんな行動力というべきだ。

○8日ぶりのビール

 午後6時からSCIインディアのパーティ。
 60代から20代まで幅広く20名以上が集まる。チャイとクッキーのような軽い菓子でのパーティ。
 ここで局長が、「じつはビールがあります。好ましくはないのでしょうが、希望する人はビールで乾杯しませんか」と声を挙げる。希望したのは、半数以下だろうか。笑顔でない人もいる。アルコールを好ましくないと思っている人も少なくないのだろう。

 5本買ってきた缶ビールも、小さな紙コップを手にするみなに配ると、一人あたりはわずか。コップに1杯程度だろうか。味わうまもなく、すぐになくなる。とてもビールを味わうという感じではない。インドのビールはあまりおいしいとは感じられない。それとも輸入品だろうか。たしかエアインディア機内で飲んだのが最後のはず。8日ぶりのビールだったのに……。

 60代のインド人になると、さすがにみな風格がある。教員をしていたある人は、あとで私にヒロシマ、ナガサキは繰り返してはならない、とゆっくりした口調で語っていた。



 夜、ブッピーの家へ。また部屋で寝かせてもらう。
 いい空間だ。広い部屋の窓にカーテンが下がり、水割りラムをいただきながら客室で語りあう。
 そして食事。いつもの料理人がつくってくれるチャパーティー、グリンピース入りカレー、ヨーグルトなど。うまい。サラダ風の具も出てくる。ゆったりした食事。