○ジャナンに到着
塩が残った白原は消え、ところどころに草や木が生える土の原が広がる。
カディール島を東から回りこんだところに、小さな集落・ジャナンがあった。
午後４時10分、到着。
バスでは３時間かかるが、クルマをチャーターすれば２時間で行けると聞いていたが、時計を見ると、結局３時間を超える走行だった。
お尻の痛みは極限にきていたので、とにかくクルマから降りられるのがうれしい。
走ってきた幹線道路の右手に集落があるようだが、われわれは左手に。
左手には病院があり、コンクリートでできた小さな住宅風の規格化されたような平屋建て建物が10件前後並んでいる
白壁の公営建物のようだ。その一棟をあてがわれる。そこがわれわれが数日寝泊まりする場所になる。
局長はさっそく第一期工事でできた学校の建物の様子をチェックに行く。
１期工事で建てられた学校
○歓迎の夕食
 荷をほどいて、金属の網の上に蒲団を敷いたベッドの上で横になる。
体を横にできることはしあわせなことだ。ボトルの水を飲む。
シャワーがあるので、それぞれ水で身体を洗う。
7、8歳の男の子たちが数人やってきてわれわれを眺め、ことばをかけてくる。笑顔がかわいい少年たちだ。結局彼らの中の一人が、以後気を利かせて連絡役になってくれることになる。
 夕食に招待される。集落の学校長の家の応接スペースらしい。モンゴルに見られる、天井が円錐形をした建物。あれと似ている。天井には枝が編まれ、周囲は土壁で固められている。
無駄な物はなく、整理されたきれいな空間だ。
中央奧の椅子に座る校長ガンシアは40歳前後だろうか。髭を蓄えおだやかそう。
その前の左右、土の上に布が敷かれている。そこが客席のよう。アルルラジとラフールが瓶の水で、食事をする右手を洗う。かつてインドに住んでいた局長も慣れたものだ。私も習って右手を洗う。
家の子どもたちが食事の皿を運んでくる。
飲み物はヨーグルトを水で薄めたようなラッシー。カレーは辛いのと、サトウキビでつくった甘いものの２種。ともに、デリー駅で食べたものよりは格段に美味。ひさしぶりに落ち着いた食のようで、おいしくいただく。手が動かなくなると、もっと食べなさいと勧められる。
最後に水が供される。もう生水を飲むな、などどいう忠告を聴いている場合ではない。もてなしてくれる家で出されるのだし、これをいただくしかない。
質素ではあるけれど、心のこもった丁寧なもてなしであることを感じる。
雑談はときに英語で、ときにアルルラジ、ラフールが通訳してヒンドゥー語でやりとりされる。
食事が終わると、また食べ物をつまんだ右手を洗う。
○午後８時にはベッドへ
外はすでに闇に包まれている。
帰り道は懐中電灯で照らされる。犬の不意の襲撃や、サソリを踏まないようにするためらしい。
この村には電話はなく、５キロ東の、昨日泊まったラパールに行かなければ電話はかけられないらしい。肉はもとより卵も食べない菜食主義が多いらしく、気位は高いのだとされる。たしかに、静かでまとまった村の様子、人々の物静かな表情からは、そういう評判はうなずける。
素朴で、小さな集落としてのまとまりをみせているように感じられる。病院があり、医者と看護婦もいる。人々の表情も穏やかで、思慮深そう。
シャツやパンツ、靴下を洗い部屋に干す。トイレは水洗ではなくインド式。水道から出る水をコップに入れ、手を洗い流す。
午後８時。体はもう午後６時ごろから横になりたがっている。アルルラジ、ラフール、そして私は提供してくれたそれぞれの部屋のベッドに寝る。局長は例によって外が好きなので、家の前にあったベッドで寝るらしい。
ガイドブックでマラリアやらいろいろ書いてあるので、蚊を避けている私は、部屋で窓を閉め、ファンを回し、蚊取線香を焚いて寝る。やはりときどき停電になり、ファンが止まると、蒸し暑くなる。１時間おきに目が醒める。
３月２４日（月）
○夜明けの風
 午前6時15分 目が覚め外へ出る。空が明るみ始める。
遠くからコーランだろうか、あるいはヒンドゥーの経だろうか、歌が聞こえる。近くの家からもお経のうような声が流れてくる。
空の明るみが広がると、小鳥のさえずりが激しくなってくる。さわやかな風が流れていく。集落からはずれると家は見えないが、人の声が集落の外からも届いてくる。犬の鳴き声も聞こえ始める。
近くの病院玄関の階段に腰かけると、昨日のクルマの鉄製座席で痛めた尾てい骨が痛む。あきらかに打撲を負っている。
早朝の病院前で少年と
村の風景と空を眺め、風を感じている。
水を入れたペットボトルを手にした男たちが、ときに草むらのほうへ消えていく。アウトドアトイレの時間なのだろう。
朝食はビスケットとティー（チャイ）。量としては極めて少量だが、それ以上、体が欲しない。チャイはもう少し欲しいところだが。
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